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WCAG 2.0のベースラインへの不安と期待

2006年8月3日
アクセシビリティ・エンジニア 中村

現在策定が行われているWeb Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0と1999年に勧告となったWCAG 1.0。この2つのガイドラインの大きな違いのひとつとして、ベースラインという概念があります。このベースラインについては、WCAGのワーキンググループ(WG)はもちろんのこと、既にさまざまなところで論議されていますが、当Blogでも問題点、利点の双方について簡単にまとめてみたいと思います。

ちなみにベースラインについては、Web Accessibility Initiative (WAI)としても説明が必要なものであると認識しており、About Baselines and WCAG 2.0という文書が提供されています。また、この文書については、財団法人日本規格協会情報技術標準化研究センター 情報アクセシビリティ国際標準化に関する調査研究開発委員会ウェブアクセシビリティ国際規格調査研究部会によってベースラインと WCAG 2.0 について - 日本語訳: About Baselines and WCAG 2.0という翻訳版が公開されておりますので、詳細が気になる方はそちらを参照していただくとよいでしょう。

さて、では先に問題と思われる点について考えてみます。まず、ベースラインという言葉をはじめて知ったときに、ベースラインって何?と疑問に思う方は少なくないと思われます。そういった意味では使い慣れない言葉である、ということは問題点のひとつでしょう。とはいえ、その定義については、前述の文書において「制作者がアクセシブルなユーザーエージェントによってサポートされ動作可能であると想定する技術の一式」と記されていますし、内容を理解することがガイドラインを理解する上で重要なことである以上、時間とともに解決されていく問題だと思われます。

しかしながら、ここで別の問題が浮かび上がります。前述の定義における「制作者」が「想定する」というところです。すなわち、制作者が誤って「想定した」ベースラインを設定してしまう、という可能性があるということです。先の文書内でWAIはベースラインを設定する為の指針を提供することはあるかもしれないけれど、「ひとつのベースライン」というものを設定することはない、とはっきり述べています。したがって、制作者、つまりコンテンツを提供する側がベースラインを設定することになるわけですが、作る側の都合にあわせて設定が行われてしまう、という誤ったアプローチがなされてしまうことが容易に想像されます。

もちろん、WAIもこの文書内を含め、ベースライン設定についての説明を行っているわけですが、このあたりの認識がガイドラインと同時に確実に伝わっていくかどうかが、WCAG 2.0が今後勧告となった際に意義あるものとなるかどうかに影響してくるものと思われます。

一方、ベースラインのメリットにはどのようなものがあるでしょうか? まずひとつには、各達成基準の曖昧さが少なくなり、準拠しているかどうかの判断がしやすくなる、ということがあります。次に、技術に依存しなくなる為、技術の変化や、新しい技術にも対応できるガイドラインとなる、ということがいえるでしょう。

前者の結果としては、ガイドラインに準拠しなければならない人や団体、例えば公共団体などが準拠しているかどうかの判断がしやすくなり、曖昧な状態のままで放置される、といったことが少なくなると思われます。後者の結果としては、日進月歩のこの業界にとっては非常に重要なことで、新しい技術でガイドラインにないからアクセシビリティは気にしない、といった事態を防ぐことができるのではないかと思います。

ということで、非常に簡単にではありますが、WCAG 2.0におけるベースラインのメリット、デメリットをいくつか考えてみました。デメリットについては、ガイドラインを適用していく側が注意すれば解決する問題だとは思いますが、適用すること自体が難しくなってしまっては、ガイドラインが広まらず、結果として全体としてのアクセシビリティも向上しないということになってしまいかねませんので、今後いかにしてこの認識を簡単に、かつ正しく広めていけるかが課題となることでしょう。

なお、WCAG2.0のワーキングドラフトに対するコメントの受付は締め切られてしまいましたが、これをサポートする各文書へのコメントには締め切りがありませんので、意見のある方は英語ではありますが、Instructions for Commenting on WCAG 2.0 Documentsを参考にコメントされるとよいのではないでしょうか。

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